月刊歌謡曲の6月号が発売になっています。
今本屋に行くと山積みになっているはずです。
意外に売れているようで、しばらくすると手に入らなくなってしまいます。
ライバル誌は『歌BON』という雑誌。
きっと本屋では月刊歌謡曲のとなりにあるはず。
それぞれ、独自の採譜、コード付けがされていて、
同じ曲を2冊で比べてみると面白い。
キーボードで使う場合、特に歌伴に適したコード付けがされているという理由で
私は月刊歌謡曲の方が向いていると思います。
最新の号に掲載されている一青窈の『ハナミズキ』という新曲のサビ部分、
歌詞でいうと「うーすべーにいーろの」というところの1小節のコード付けを比べてみると、
月刊歌謡曲 E D#m7-5 G#aug
歌BON E D#m7-5 G#7
となっています。
そもそも、aug(オーギュメント)と7(セブンス)のキャラクターはかなり違うので、
このコード付けの違いは一見不思議です。
しかし、実際に音を出してみると、どちらもメロディに合っている。
歌BONのG#7の方がなめらかに聞こえます。
この2つのコードの違いを実音で示すと、G#augのE音とG#7のD#音。
で、ここのメロディの音は何かというと、Eです。
G#augの構成音にメロディ音が含まれているということなのですが、
そのことが、歌伴用のコード付けとしては適していると私は思います。
初見の場合、そのコードの特徴的な音をトップノートにすることが多いのですが、
G#augで特徴的なのはやはりaug音(+5=E音)ですね。
augと表記されていることで、メロディー音をトップに持ってきやすくなります。
そういう点で歌伴向き、という感じがしますね。
・・・・・
今意識せずに弾いてみると、私はaug (+5)音をトップではなくて内声にしていました。
G#augのaug音(+5=E)をトップで弾くと、G#の基本形(で+5)になるからそれを避けているとか、
それまでの伴奏音域で弾くと低すぎて汚いからだとか、
次のコードのC#m7のボイシングを意識しているからだとか、
まあ何とでも理由はつけられますが、
そんな風に弾いていました。なんとも。
・・・・・歌いやすければいいのです。
ところで、G#7はキーEからすればIII7ですね。
トライアドで考えるとIIIのコードはIIIm(G#m)ですが、
ここではメジャーコード(G#7)になっている。
次のコードがC#m7なので、ここで一時的にキーがC#mになっているのだと考えると、
G#7はキーC#mから見たときはドミナントセブンスになる。
セカンダリードミナントモーションが形成されている、という解釈が一般でしょう。
そんなことは考えなくても、歌伴がしやすいコード付けがされている、という点で
私は月刊歌謡曲をお奨めします(たった1小節の、1コードが違うという例だけですが)。
コード分析の話が中途だったのでその部分の補足をしておきます。
まず、純粋なコード付けの『歌BON』のコードを、先に例に出した部分を含めた
4小節を書いてみます( | は小節の区切りを表します)。
E D#m7-5 G#7 | C#m Bm7 E7 | A E/G# | F#m7 F#m7/B B7 | E 〜
1小節目から2小節目の G#7 → C#m が、キーC#mに一時的に転調した
セカンダリードミナントモーションだと書きましたが、いやそれはそうなのですが、
そのひとつ前のD#m-5に注目すると、キーC#mのIIm-5になっているので、
C#mに向かうII-V(ツーファイブ)が形成されているという解釈になります。
ここでポイントはIIにあたるD#m7-5(ハーフディミニッシュ)ですが、
II-VがIIm7-5 - V7になっている場合は、マイナーキー(マイナーのトニック)に向かう、
特徴的な進行です。
この曲ではままさにC#mとマイナートニックに向かっているので、セオリー通り。
マイナーキーの場合、IIがIIm7-5になる理由を不思議に思う方は、
ハーモニックマイナースケール上のダイアトニックコードを弾いてみるとわかります。
ということで、IIm7-5 - V7 は次にマイナートニックが来ることを予感させます。
そして2小節目はセオリー通り、キーC#mに転調したトニックC#mになっています。
そして3拍目ではBm7、4拍目でE7。
これもキーAのII-Vですね。そして今度はIIがBm7とIIm7なので、メジャートニックに向かう
II-Vと考えられます。
3小節目の1拍目は、予想通りAになっています。
ここまで、わずか3小節でキーが E→C#m→A と変わっている(転調している)。
メロディが先かコード付けが先か判りませんが、よくできていますね。
その後、またEにもどるまでの流れは、長くなるので書きません。
以上、大雑把ですが『ハナミズキ』のサビ3小節のアナライズでした。
さて、歌伴をするときにもこの分析が必要かというと、そんなことはないと私は思っています。
わかった方が感情の込め方などのバリエーションも広がるのでいいのでしょうが、
そんなことを考えなくても、月刊歌謡曲や歌BONのコードを弾ければ歌伴にはなります。
アドリブをするのであれば、わかった方がいいでしょうけどね。
まずは歌伴をやってみようというのなら、まずはコードを覚えることでしょう。
月刊歌謡曲に出てくるコードは168種しかないようです(巻末のコード表の数)。
もちろん、それにベースが異なる分数コードのバリエーションが加わりますが、
登場するコードはけっこう限られているようです。
(掲載される曲のキーが均等に分布していないのでしょう、それは感覚的にもわかる)
分析しようとすれば、まだいろいろな角度からできるのですが、
歌伴なら演奏にはあまり意味がないし、楽しく伴奏演奏を楽しめばいいよね。
ちなみに月刊歌謡曲のコードは
E D#m7-5 G#aug | C#m7 Bm7 Bm7/E(またはE7sus4 ) |
A E/G# | F#m7 F#m7/B B7 | E 〜
コードアナライズを反映させて、アレンジも加わったたコード付けになっていることがわかると思います。
歌伴用にはどちらかというと『月刊歌謡曲』がおすすめ、とした理由の説明でした。